会長ご挨拶

第57回
日本鼻科学会
総会・学術講演会

会長 原渕 保明
(旭川医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座 教授)

この度,第57回日本鼻科学会総会・学術講演会を9月27,28,29日の3日間,旭川で開催させていただくことになりました。大変光栄であるとともに身の引き締まる思いを感じております。旭川での開催は前任の海野徳二名誉教授が1986年に第25回を開催しており,それから32年ぶり2度目になります。その間,疾患の変貌,手術法の進歩に伴って,学会の規模も大きくなり,日本のみならず海外からも参加者も増えてきました。このような背景から今回のテーマは「鼻科学の未来と国際化を語る」としました。

「国際化を語る」催しとして,米国から4名の招請講演,アジア諸国から4名の招待講演,さらに韓国からは韓国鼻科学会理事長スペシャルレクチャー,日韓セッション,国際セッションに計6名の演者が来旭してご講演いただきます。また,「鼻科学の未来を語る」催しとして,4つのシンポジウム,2つのパネルディスカッション,日本鼻科学会診療指針・ガイドラインセミナーなどを企画致しました。

招請講演として4名の先生を米国から招待いたしました。Utah大学教授でアメリカ鼻科学会理事長であるRichard Orlandi教授と次期ISIAN会長であるNorthwestern大学 のRobert Kern教授には,内視鏡下頭蓋底手術やESSなどについてアメリカの現況と今後の展望についてご講演いただく予定です。また,清野 宏教授(California大学 San Diego校)にはNALTを中心とした上気道粘膜免疫,紀太博仁教授(Mayo Clinic)には鼻アレルギーや好酸球性鼻副鼻腔炎におけるサイトカインネットワーク機構について,それぞれ最新の研究成果をご講演いただく予定です。また,Meet the Professor from Asian Countiesと称し,アジア諸国から4名の教授,タイ鼻科学会理事長でKhon Kaen大学のSanguansak Thanaviratananich教授,Taipei Mackay Memorial病院のYing-Piao Wang教授,National Taiwan大学のTe-Huei Yeh教授,香港鼻科学会理事長でHongKong Chinese大学のMichael Tong教授,をお招きしました。そして,2002年から継続している韓国鼻科学会との交流として韓国からは,6名の参加が予定されています。

鼻科学の発展は目覚ましく,内視鏡手術も鼻副鼻腔のみならず,近接部位にまで及ぶようになりました。その現況と発展について米国からRichard Orlandi教授とRobert Kern教授に講演していただきます。また,アドバンス内視鏡手術ビデオシンポジウム「内視鏡手術の適応拡大と限界」を企画し,第一線で活躍中の4名のシンポジストに眼窩病変,頭蓋底病変,翼口蓋窩病変,下垂体病変をテーマに,動画を用いてその手術法について参加者と共にディスカッションします。また,鼻内視鏡手術に関するランチョンセミナーを企画しています。さらに実際に模型を使った内視鏡手術ハンズオンセミナーを初心者向けと中級者向けに2つ企画しました。受講人数には制限がありますので受講希望者は早めにホームページからご応募下さい。

鼻副鼻腔の悪性腫瘍では,扁平上皮癌以外の肉腫に対する治療法や病態に関しては未だ確立されていません。そこでシンポジウム「鼻副鼻腔悪性腫瘍の病態・診断・治療 up to date」を企画しました。現在,第一線で活躍中の3名のシンポジストにそれぞれ嗅神経芽細胞腫,悪性黒色腫,鼻性NK/T細胞リンパ腫について最新の治療法や病態に関してディスカッションしていただきます。

神経変性疾患・認知症の初期症状として嗅覚障害が注目されており,超高齢者社会に向けて嗅覚を扱う本学会の役割は極めて重要です。そこで,シンポジウム「嗅覚検査 up to date:中枢神経疾患・認知症のスクリーニング・早期診断への応用」を企画しました。レビュートークをこの分野の第一人者である武田 篤先生(国立病院機構 仙台西多賀病院脳神経内科)にしていただき,3名の耳鼻咽喉科医が最新の研究成果を発表し,討論していただきます。また,嗅覚教育セミナーとして柏柳 誠教授(旭川医科大学 生理学)に嗅覚研究に関して最新情報を提供していただくことになっています。

自己免疫疾患,特に難治性血管炎の増加が高齢者社会に向けて注目されています。その中でも,多発血管炎性肉芽腫症(GPA)(旧,ウェゲナー肉芽腫症)と好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)(旧,Churg Strauss症候群)は鼻副鼻腔に初発することもあって本学会でも重要なテーマであり,会員の皆さまも精通するべき分野であります。 そこで,本学会と私も班員になっている「厚労省難治性血管炎に関する研究班」との合同シンポジウム「GPA,EGPAの臨床と病態」を企画しました。レビュートークを「厚労省難治性血管炎に関する研究班・横断協力分科会」会長である高崎芳成先生(順天堂大学越谷病院院長)に講演していただき,2名のシンポジストが耳鼻咽喉科の立場からそれぞれGPA(特に上気道限局型)とEGPAついて発表します。

近年,若手医師の基礎研究離れが問題になっています。今回,最新の研究成果をディスカッションすることと,若手医師の研究マインドを刺激する目的で,若手研究者パネルディスカッションを2つ企画しました。ひとつは,「上気道感染・アレルギー・腫瘍ワクチン療法:臨床への応用」です。鼻副鼻腔領域は感染やアレルギーの標的になっていると同時に上気道免疫の中心的役割を有し,ワクチンの実効器官でもあります。現在,自ら基礎研究している若手耳鼻咽喉科医4名によるワクチン開発の現況と臨床への応用をディスカッションしてもらいます。さらに,清野 宏教授(California大学 San Diego校) に招請講演として上気道粘膜免疫について最新の話題を提供していただきます。

もうひとつの若手研究者パネルディスカッションは「好酸球性鼻副鼻腔炎の謎を探る!」です。現在,基礎研究を行なっている若手耳鼻咽喉科医4名によって好酸球性鼻 副鼻腔炎の謎を解く鍵をディスカッションしていただきます。また,紀太博仁教授(Mayo Clinic)には,招請講演として鼻アレルギーや好酸球性鼻副鼻腔炎の病態について最新の話題を提供していただきます。また,これから,基礎研究を始めよう,新たな技術をつけようとしている若手研究者には基礎ハンズオンセミナーも催していますので,多数参加いただければ幸いです。

本学会にはいくつかのアドホック委員会があり,診療指針・ガイドラインが作成・更新され,ホームページにも掲載されています。そこで,「日本鼻科学会診療指針・ガイドラインセミナー」として,委員会の一員に,1)アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法診療指針,2)急性副鼻腔炎ガイドライン,3)嗅覚障害診療ガイドライン,4)鼻腔通気度標準化,そして5)鼻副鼻腔手術手技機能評価委員会からESS分類と術後の評価,についてそれぞれ解説をしていただきます。

日本専門医機構認定の専門医共通講習には3つ必修講習,1)医療倫理,2)感染対策,3)医療安全,があります。今回はこの3講習全てを企画しました。学会参加者はいずれも受講することができます。

一般市民への啓発も学会の使命として重要です。そこで,学術講演会最終日の9月29日(土)の午後に,市民公開講座「知っておきたい花粉症,副鼻腔炎,鼻出血の対応」を企画しました。シラカバ花粉症と口腔アレルギー症候群,好酸球性鼻副鼻腔炎,鼻出血への対応について,3名の会員に一般市民の立場に立った解説をしていただく予定です。

これらの企画に加えて,第一線の診療に役立つランチョンセミナーも数多く企画しています。

学術講演会開催中の旭川は周辺の大雪山連峰,十勝岳連峰の美しい紅葉が真っ盛りです。その麓の美瑛,富良野では色とりどりの花もご観賞いただけます。また,旭川市内には三浦綾子記念館,井上靖記念館などの文学記念館,数多くのゴルフ場に加え,入園者数日本一になった旭山動物園があります。さらに,この時期には脂ののった鮭,いくら,毛がに,たらばがに,花咲きがに,うに,あわび,牡蠣,などの海の幸,じゃがいも(北あかり,男爵,メイクイーン),とうもろこしなどの陸の幸,旭川ラーメン,大雪山の伏流水を用いた銘酒(男山,高砂,大雪の蔵)などをご賞味いただけます。 会期終了後には滞在を延ばして秋真っ盛りの旭川をご満喫していただければ幸いに存じます。

このような環境のもと,多くの参加者が討論と親睦を重ね,実り多い学術講演会になるように教室員と同門会一同,一丸となって準備しています。数多くの会員の皆様のご参加を心からお待ち申し上げます。